2015年05月28日

表面実装型マイクロUSBコネクタの交換修理

iPhone用オプションである充電式アダプタを知人のお嬢さんが壊したらしい、とのことで「修理できる」と判断して依頼を受けた。
電機メーカーにて表面実装基板ハンダ付け修理の経験もあり、パーツさえあれば問題ない。
ところが、そのマイクロUSBコネクタ(Type-Bと呼ばれるもの)で引っ掛かった。

家庭用のコンセントや、基板に設置された "挿し込まれる" 側を「レセプタクル」と呼ぶ。「ジャック」とは通常、丸穴の端子を指す。
蛇足ながら、「ポ ー ト」とは外部機器接続用に設けられた筐体の "穴" である。

数百円〜千円程度で買えるケーブルの損傷であれば買い換える方が簡単で安く確実なことは言うまでもない。細かく面倒な作業であり、それ以上の価値があるとは思えない。
両端の端子を用意して高品質(=高価)な線材を使って "自 作" するならまだ分かるが、費用対効果の点で一般的とも言えず、その意欲がある方は既に実行されてるだろう。

機器内コネクタが損傷した場合、製品保証があって修理依頼の手段があるならば無償期間経過後でも手を着ける前にメーカー及び販売店へ問い合わせることが確実な手段。
ケータイなどでは依頼品を個別に修理せず、組み立て済み基板をアッセンブリー(もしくは一式新品で)交換して対応している。
今回の場合、購入後保証の責務を負う側の判断として「ユーザの扱いにより発生した不具合なので有償で新品交換(つまり、買い換えろ)」となってしまうので請け負うことにした。
当然、事後の動作保証も考慮しなければならないので不確定要素は排除。足を延長するとかパーツ再生など無茶なことも御法度。
スキルも持たない者が自己使用のため興味本位で行うのも自由ではあるが、失敗すると修復不能になり全てがゴミと化す可能性が高い。

R0012152a.jpg
左がZX62R-B-5P、右がZX62-B-5PAで下部中央に接続用に幅0.4mmの足が0.65mm間隔で5本並んでいる。
比較用に置いた中央のICは穴開き基板に挿してハンダ付けを手で行う一般的な8ピンDIPパッケージ、足の間隔は2.54mm(=1/10インチ)。

なお、「ハンダ」とは溶かして接合させる金属材料のことであり、
加熱する工具は『ハンダごて』
その作業は『ハンダ付け』である。
これら用語を全部混同されている乱暴な方も見られるのが残念。
また、配線している部分は "板" であるから「基板」が正しい。
"〜盤" の熟語では「物事を成立させるための基礎となるもの」という意味、これは義務教育で習得されたはず。物体の名称ですらなく間違えてはいけない。

以下に標準的と思われる工程を述べるが、誰にでも簡単にできる作業とは思えないのでご自分で判断を
真似されても当方は関知せず、クレーム及び要望などは一切受け付けない。
外装が割られた状態で到着。基板上の作業だけで済むから請け負った。
より小さく造られた製品は分解方法が厄介だったり、元から修理を考慮せず「使い捨て」な構造になってしまいがち。実作業の前に壊して戻せなくなるようなことは回避しなければ意味がない。
破損した部分の画像、基板パターンに損傷はなくハンダ箇所が外れた状況に見える。
Broken.jpg

コネクタの足が5本中3本しか残っておらず、そのまま使い回すことは不可能と判断。作業後に目視不可能になる微細な箇所へのハンダ付けはリスクが高過ぎるのでパーツを入手することが必須。
『補修』とは部品交換をせずに、現状のを使えるようにして直すこと。今回は当てはまらない。
広範囲に検索する前にいつもの秋月で探してみると、単体及び試作用基板ユニットがある。
ZX62R-B-5Pの形状はメーカー仕様書に「リバースタイプ」とあり、破損したのは「標準タイプ」。互いに表裏が引っくり返った形状で、ケーブル側のプラグを差し込む向きが180°異なる。
USBの規格についてもチェックし、大丈夫だろうと思った。3ピンはそのままで未接続の2ピンを4ピンと入れ替えればOK、ここまではいい。
R0012067a.jpg

1ピンと5ピンも入れ替えてしまうのはつまり電源ラインの+と-を逆接続してしまうことであり、もちろんNG。これを見落としていた。
一度取り付けてから電源に繋ぎ、異常に気付いた。逆接続保護回路が入っていたため影響がなかったのが幸運であり、未知の回路を過信してはいけないのも事実。
同形状のコネクタ "ZX62-B-5PA" を扱ってるところを検索。
業務(卸し)向けとして耳にしたことがある専門ショップが数件ヒットした。
アキバにおいても店頭在庫があるショップもあると思われるが、探す時間はタダではない。
1個から注文を受け付けてくれて、横浜に倉庫があり支払い方法も手間が掛からない「コンビニ後払い」が選べるchip1stopに注文した。

【2016年5月追記】
リバースタイプで電源ライン専用とした足が2本の製品が秋月に入荷
【2017年3月追記】
今回使用したヒロセ製 "ZX62-B-5PA" も秋月に入荷

Amazonでも取り扱いがあった。しかしこの価格からして勧められない。嵌合の精度や接触具合など当たり前の品質レベルとして、つまり信頼性で上述した国産品には及ばないだろう。壊れたらまた着け直す…のも手間と思わないならいいかも知れないが、何度も加熱されるによりパターンを損壊してしまい修復不可能に陥る危険性もある。


このような小面積の作業ではニクロム線ヒーター式のコテで30〜40W、セラミックヒーター式では20Wクラスまでのものを用意すること。60Wなど大き過ぎてNG、慣れた人でも基板(や部品も)を破損しやすい。
安全な作業のためにコテ台も不可欠である。
R0012342a.jpg

ハンダごてはANTEX製のG型を長年愛用、28gと超軽量なペンサイズで疲れにくくハンドル部分まで熱さを感じないセラミックヒーターで安心。
18Wで標準コテ先820(旧番802)を装着して無鉛ハンダに対しても熱量は充分。
以前、表面実装基板用にと細い106を着けてみたが熱量不足を感じた。極細コテ先が必要な場合はひとつ上位のCS型に1106を組み合わせた方が適すると思われる。
R0012343a.jpg

なお、Amazonに出店してる業者でも扱いがあるが高価。輸入元の常盤商行から購入するか、アキバの「西川ネジ」等の実店舗にて確認をおススメしたい。
以前のエントリでも述べた通り、現在は主に日本スペリア製の無鉛ハンダSN100Cを使っている。
無鉛ハンダの溶融温度が高いのは仕方ないにしても、先行して出回っていたものは溶けても粘りがあって流れにくく細かい配線でなくても使いにくかった。
その後にオヤイデの店頭にてSN100C(040)を見つけ、試したところアピール通り以前主流だったスズ60%クラスの有鉛ハンダと変わらない作業性の良さを感じた。冷えてからの表面も白っぽくガサガサにならずツヤもある。
添加物がわずかに異なるSN100(031)はAmazonでも切り売りもしている。


もちろん不慣れな方は既存の有鉛ハンダで構わない。
このような微細パーツをハンダ付けする場合、フラックスがとても有効。似て非なる「 ペ ー ス ト 」は事後に腐食を起こしてしまうので電気関係では絶対に使ってはならない。
R0012078a.jpg

キャップ内に付属のハケは熱で溶けてしまうので注意。メーカーの修理現場では、注射針を装着した小さな容器に入れて適宜垂らすように使っていた。現在手元にあるのはプラリペア溶剤用のもので、付属の針は横穴の位置でカットしてある。
無鉛ハンダを常用しているとコテ先の磨耗が早くて凹みを発生しやすく、そこに焦げたフラックスも残ってしまい溶けにくくなる。しかし表面が耐蝕メッキされているコテ先をヤスリで削るのは厳禁。この場合、チップリフレッサーで整えると凹みまでは戻らないが元通りに回復し作業が継続。
  

対象箇所が細かいからといってコテ先を細く尖らせる必要はない。
接触面積が足りず熱量が安定しなくなるだけでなく、基板を突いて壊す危険性もある。
基板へ密着させるため、ハンダが残っていたらできるだけ撤去する。コテ先でいじくり回してパターンを壊してしまっては元も子もないので、ウィックなどを惜しまず使って短時間に済ませておく。
フラックスが焦げて残ってしまったらアルコールかラッカーシンナーを含ませた綿棒などで落とす。
 

更にピンセットも必需品。安価で買えるもので妥協せず、指先の延長であり感覚が大事な作業だからここは奮発して良質な道具を。
タミヤ製ピンセットが好みで、先端を鋭利に研いでいつもそばに置いている。


電気が関係する工作で気になる方には非磁性体を。チップ部品の取り扱いではこの細いストレートタイプが馴染んで使いやすい。逆作用も持ってると便利。
  

老眼の兆しを感じ、両眼視野で把握できるヘッドルーペをStewMacで購入してからは必需品になった。
DSC_0459a.jpg

Amazonでも取り扱いがある。視力に自信がある方であっても近距離での負担が軽減されるので、持っていて損はない。
デフォルトのx2レンズだけでも有効範囲は充分。


通常のハンダ付け手順では
1. 接触(線を絡める等)させてから
2. コテを当てて加熱しつつ
3. フラックス入りハンダを押し当てて溶かし流す
4. ハンダが行き渡ったことを確認してコテを離す

が、表面実装タイプのパーツではこの方法が使えない。そこで
1. 基板にパーツを密着させて
2. 当該箇所へフラックスを垂らしてから
3. コテ先にハンダを少量溶かしてから当てる
4. 必要箇所に流れたことを確認してコテを離す
足のピッチが細くても1列に並んでいて位置さえピッタリ合致させられたら意外と簡単。足がたくさん並んだICなどの場合は足先の列に当ててゆっくりと一直線に滑らせるように行う。流れて接続した証であるハンダの光沢と、隣と接触(ブリッジ)していないかをチェックする。

さて、基板パターンを壊さないように気を遣いながら間違ったコネクタを外す。
パーツの隙間にピンセットの先端を差し込み、ハンダ箇所を加熱。
不用意に力を掛けないように注意深くピンセットを徐々に奥へ進ませ、別の方向からも同様に浮かせていく。
細いノズルから高温の熱風を吹き付ける専用の道具があれば早く外せてパーツの損傷も少なく済むが、このようにハンダごてで行う場合は基板パターンの維持を最優先に考えること。ここで壊して修正不可能になってしまうと後の祭り。配線端子はハンダを除去し過ぎるよりも、熱を伝えやすくするためわずかに残しておいた方がやりやすい。
コネクタが載っていた箇所をキレイにし、届いたコネクタを取り付ける。
所定の場所にコネクタを逆作用ピンセットで挟み、密着させたまま基板上の位置を微調整。
端子の足より先に、シェルの片側だけ少量のハンダで仮固定。ピンセットを外し「浮き」がないことを確認してから反対側にもハンダを流す。次いで仮固定した方にも流すことでしっかりと固定され、位置ズレしなくなる。ただし、山盛りに乗せ過ぎても意味はない。段差がなだらかに繋がる程度でいい。
足と基板パターンの両方がハンダが融ける温度まで加熱されていればスムーズに流れる。
ほとんど見えない奥にある足へフラックスの力を借りて、ハンダが乗ったコテ先を当ててちょんちょんと流す。
ハンダが足りなかったら更にフラックスを垂らして追加、ブリッジができていたらコテ先で溶かして解消する。

ヒロセ製だけあってハンダの乗りも良く、端子内部のプラスチックが熱で変形してしまう元のコネクタよりもしっかりしている。
R0012079a.jpg

ビニール被覆線を剥き芯線を2本撚って、先ほど外した4ピンの接続箇所を元通りに補修してから電源を接続。
今度はLEDも点灯して正常に動作した。
私の作業はここまで、筐体の作業は依頼者自らが行うとのことで返送。

R0012080a.jpg


【余談】
当初は依頼された作業の報告として、公表するための解説を加えたエントリのつもりだった。
ところがアクセス数が非常に多く困惑している。
「そんなに壊れるのか?」
「それとも、ユーザの扱い方により壊すのか?」
出処がよく分からないパーツの場合、信頼性に疑問があることは経験上感じている。
外からの力が掛からない素子でもそうなんだから、コネクタでは尚更。
ハンダ付け後に外れたり接触不良を起こしたりといった経験はないだろうか。
その原因はごくコテを当ててる時間がほんの数秒足りなかったり、わずかな違いでしかない。
表面実装基板は手作業ではなく機械により量産され、その後に目視検査がある。組み立て後のコネクタの使用耐久性も試験項目のはずだが、ユーザの扱い方を想定する範囲に限界があり実際にはアテにできない。
安価で提供するからと『使い捨て』的に雑な作りの製品も存在するのだろう。
新興メーカー(の下請工場など)では組み立て設計や実装技術など生産管理に不安要素も。

外装の筐体にネジ止めされたコネクタ類は手荒な扱いをしても壊れにくい。
基板に載せて固定するコネクタでもサイズが大きければハンダ付けで固定される足も大きく、まだ丈夫。
小型化と引き換えに、壊れやすい製品になってしまっているのは非常に残念である。
ラベル:electronics
posted by bluesmith at 20:00| クラフト | 更新情報をチェックする