2016年10月31日

【F SGのレストア】#1

今回はフェルナンデス製の古いSGモデル。
外観チェックをしながら各部の処置を詰めて作業していく。
何分にも古く、弾かずにしまっておいたギターと思われチェックポイントは多岐に渡り、これを現在のライヴに使える標準的レベルにまで手を入れる工程を記す。
いくつかの段取りでまとめているつもりだが、同時進行の工程もあって作業順序通りには記載していないのでそう解釈していただきたい。

IMG_2840b.jpg
さてメーカーが発行してきたカタログアーカイブを見ることができる。
'73年に登場しているものは詳細不明。'77年にFSG-58/FSG-75が確認できる。今回の依頼機はGroverペグ搭載なので上位モデルFSG-75と判断。'78年Vol.1ではFSG-65となるがアピールポイントだったペグについての記載もなく、形状から見てクルーソンタイプに変更されたようで、ヘッドロゴも異なっている。'80年にもFSG-65として続くが以後特に変更されてはいないと推測される。


【ペグ考察】
装着されていたペグはGrover製、ただし2分割のハウジングがカシメられた古い(当時の)モデル。長期間手付かずだった証拠のようにグリスが固まっていて回した感触も悪い。
IMG_2844c.jpg

ボディが薄く軽量なSGではその重さによりヘッド落ちの原因になるだけでなく、当然ながら音質にも影響する。定番の軽いクルーソンタイプGOTOH SD90に交換するためペグ固定のネジ穴を埋めておく。
弦交換も容易なため評判のいいマグナムロックを選択。
ロトマトックタイプのペグ穴はφ10mm+α(厳密なものではなく入ればOKというサイズ)であり同梱のブッシュは適合しない。埋めてφ8.5mmで開け直す手段もあるが、内径6mm/外径10mmのコンバージョンブッシュを介して収める。

 

【ヘッド周り考察、加工】
真っ先にアジャストカバーを開けてロッドの効き具合をチェック。ネックもまずはフラット状態を出せて正逆両方向に回ってその通り変化することを確認、問題なしと判断。
表板はコピーモデルの標準ともいえるプラスチック材。
アジャストナットは取り外せない5mm六角レンチ使用型。ナットを越えた指板下の奥に設置されていてレンチを差し込むホールのザグリも最小、そのままではやりにくいのでカバー内に収まる範囲で上方向に拡大する。
オリジナルのカバーをそのまま生かしたいとの要望なので、一部が欠けてしまったロゴを手書きで修正しクリアを吹いて研磨しておく。
R0012542b.jpg

外したナットもプラスチック素材。
ヘッド板がナット下地までその角度のまま貼られているだけでなく、ホールから続く中央部分が欠落している。この程度は「気持ちの問題」ではあるがマホガニーとメイプル端材で修正したい点。
R0012492a.jpg

クラウンインレイの周囲が白っぽく変色しているのでタッチアップを目的に軽くペーパー掛け。
ところが予想に反して変色した箇所が広がってしまい中止。
修正は諦め、メイプルの突板を貼るオリジナルと同じ手法で全面改修することにしてプラ板を剥がす。
中央のクラウンインレイもやや斜めになっていて形状もちょっと異なるので、これも本家オリジナルと同形状のものに貼り替える。
カバーと同様の要望で、ヘッドロゴも元のを移植する。
ヘッド表に2mm厚のメイプル突板を貼って最終的に1mm強に調整、アウトライン形状を合わせてから塗装。シーラーで平滑化し黒を吹いてから色止めのため一度クリアを吹く。研磨により側面の赤い塗色部分も薄くなってしまうのでタッチアップも行う。
R0012519b.jpg

R0012563a.jpg

剥がしたプラ板からロゴだけを確保する作業。
表側のポリエステルクリア層にペーパーを掛け、なるべく薄くしながら平面を出す。
裏側の黒いプラを少しずつ削り落として透けるくらいになってからアセトンで溶かすことにより、薄い塗膜として残すことができた。裏面には黒を吹き、適切な形状にカットしておく。
R0012531a.jpg

ヘッドのセンターを出し、傾かないように位置を決めアクリル系の接着剤でロゴを貼る。端が浮かないように当て木で圧着しておく。
念のためGibson専門書を確認したが、クラウンインレイの位置は個々で異なっていて厳密な位置指定はないらしい。
アジャストカバーを定位置に置き、その間が等間隔に見えるような位置にクラウンインレイを貼る。
R0012526a.jpg

ヘッド前面にクリアを吹き重ね、塗膜がインレイの厚み以上になってから表面を平滑に磨く。
R0012575a.jpg

【指板考察】
今回のメイン依頼は「フレット打ち換え」で、過去にショップで断られたとのことなので状態をよく確認。
フレット両端がバインディング手前までしかなく、短くされているのが目立つ。バインディングもエッジが指板際からサイドドットまで大きく削られていた。
R0012498a.jpg

このように大きく面取りされた『丸いネック』を好まれる方もおられるようだが、ビブラートなど指板幅を有効に使って弾くプレイヤーには演奏しにくく感じられるだろう。その逆にエッジが立ち過ぎていても違和感があり、手が触れて操作する箇所の角は感触も含めてほどよく丸めておく必要がある。
各種(金属素材)パーツに関しても同様のことがいえる。角をクッキリと90°に立てた加工をして精度を誇示するようなエッジは、触れた時にその厚さ以上にその段差が気になってしまうもの。指を切ってしまいそうな箇所は人間が使う道具として疑問を抱く。
これはレオ・フェンダーの哲学の一部であり、また別件で過去に相田義人氏とお会いした際にも意見としていただいた。

【ポジションマーク入れ換え】
指板上には「ポジションマークの剥がれ」を複数確認。
IMG_2853b.jpg

接着して元に戻すことも考慮しながら浮いた箇所から剥がして状態をチェック。
R0012489a.jpg

製造時期からセルロイドと思われ、厚さが実測で0.4〜6mmと規定よりも薄いためか経年変化で端から浮き上がるように反ってしまっていた。その下に残った接着剤の層が厚く気泡まで入っていて、これでは薄いのも道理。そのまま再利用補修しても今後のキープができないと判断、貼り替える。希望は「白いパーロイド」。

ポジションマーク下の接着剤を撤去、相当な年月が経っているはずなのに手応えがゴム系接着剤のように柔らかいままなのが気になった。
カタログ上では「ローズウッド」と記載されていた指板材は削っても特有の芳香がなく、木目から見てもどうやらエボニーのようだ。縞模様のない高級グレードよりは柔らかくて削りやすい。
ポジションマーク材が到着、計測すると元の方が一回り小さく、新規材の方が正確なサイズ。割り出した指板のセンターに沿って、現物合わせで彫り込みを拡大する。
R0012524a.jpg

R0012532a.jpg

仮にはめ込んで中央部分が0.5mm程度突き出る程度まで深く彫り、エポキシで接着。
硬化具合を見ながらヤスリで荒取り、ペーパーで軽くツライチに。

フレットを抜く。タングに返しを形成せず、下端をスポット的に打ち広げた古い形状。タング両端が短く削られたのもあって、収まる溝も浅くなっていた。工場生産時でこうだったのかは分からない。
R0012525a.jpg

【バインディング貼り換え】
側面からネックとの際に刃を入れつつバインディングを撤去、貼り付け面の下地を整えておく。
元の色に近い薄アイボリー色のバインディング材を用意し、光沢がある表面を#240で荒らしてからプラリペア溶剤(融着型接着剤)を流して接着していく。
R0012523a.jpg

先にエンド側を貼って指板幅に揃え、次いで左右も貼って乾燥後に指板面と高さを揃える。
指板面を荒取りして厚みを計測。規定の高さよりわずかに低くサイドドットはデフォルトのφ2.0mmでは大きく感じられるのでφ1.5mmを入れる。これもプラリペア溶剤で接着。

プラリペアは、本来の用途としてプラスチックパーツの補修、修正などに便利。
  

ネックに密着させたつもりでもわずかな隙間が発生したり段差ができるのでペーパーで均すと、着色層が削れて更に木地が露出した箇所も発生。
これは予想していたので、木地にはシーラーを塗って着色部分はタッチアップしてネック全体を仕上げ直す。そのついでにナット裏やヒール部の曲面も段差を感じる箇所があるので修正。
R0012558c.jpg

セットネック構造のため、指板直下のボディ側とのジョイント部にも同時に施工。
バインディングを剥がす時に気付いたが、この辺りは塗料が厚く盛られている。
R0012545a.jpg

指板-バインディング幅に合わせて垂直に削り落とす。
R0012556a.jpg

R0012557a.jpg

シーラー面にペーパーを掛けて木地が塞がった時点でバインディングをマスキングし、色を載せる。クリアレッドにクリアブラックを足し、試し吹きしながら調色(この色で各部のタッチアップ)。
乾燥後にテープを剥がす。糊が残ってしまったらジッポーオイルで拭き落とす。
着色の次はクリア。今度は指板面全体、バインディングの角までマスキングして吹く。
表面の平滑度を見ながら#400で水研ぎしつつ、保護層として必要な厚みになるまで吹き付けを繰り返す。
#800〜#1500のペーパーで水研ぎ、荒目と細目のコンパウンドで一様な光沢が出るまで磨く。
R0012570a.jpg

R0012567a.jpg

R0012588a.jpg

R0012589a.jpg

R0012590a.jpg

R0012574a.jpg

今回は電動バフではなく、全て手で磨き鏡面仕上げを行った。
ここ最近の私が使っているコンパウンドはチューブ入り2ミクロンと液体0.5ミクロンの2種類。
R0012675a.jpg

 

もちろんこれでなくてはならないわけでなく、他社製品も多数あるのでお好みで選んでいただきたい。

【フレット打ち込み】
指板研磨後に再度チェックし、フレットを打つ。
「(後期)Gibsonサイズ」との指定なので幅1/10インチ(=2.54mm)Jescar製の#45100を選択。
バインディングがあるため両端のタングを事前にカットしておく。
このカット作業、以前はヤスリで落としていたが専用工具を用意した。
とはいえ専用工具のフレットタングニッパーは非常に高価(米国StewMac国内ショップ)なのでハンドニブラで代用。

 

横倒しにセットしたフレットが傾かないように加工すると実用になる。TZ-20はトッププレートが外せるので容易。
R0012581a.jpg

(なお、評判のいいHOZAN製K-88ニブラは高価なだけあって本来の金属板カット用には使いやすいが、鉄板プレス構造のためこのような加工は適さずこの作業用には不向きである)

わずかに残った部分はヤスリで整える必要もあるが、作業効率が大幅にアップしたのは言うまでもない。
打ち込む前に、指板のタング溝に入り込んだ木屑などゴミをクリーニングしておく。
カットされたパッケージのJescarフレットはほぼ300Rに曲げられており、指板Rに合わせた打ち込み治具でプレスするように打つと収まりがいい。
R0012555a.jpg

部分的な浮きや沈みができていないかチェック。
左右エッジを斜めに揃えてから摺り合わせ工程へ。
露出した指板面にマスキングテープを貼る。平面が出ている幅50mm長さ150mm以上の板にスティキット#400を貼って治具とし、フレットの山を揃える。
両端の角を1本ずつ丸めていく。
高さが揃っていることを再確認して、コンパウンドで磨いて完了。
R0012624a.jpg

R0012620b.jpg

R0012621a.jpg



#2へ続く
タグ:FSG
posted by bluesmith at 16:30| 楽器 | 更新情報をチェックする